世界から注目される完全養殖の近大マグロ vol.1 その歴史

海のダイヤ

※写真はイメージです

 「お寿司で好きなネタは?」、そう問われると「マグロ」と答える人も多いのではないでしょうか。

 マグロは8種類(※1)に分けられ、その中で最も美味とされるのがクロマグロ。それ故に乱獲が進み、年間漁獲量は2.5万トン。マグロ全体の1.4%しか漁獲されないことから高価であり、「海のダイヤ」と称されています。

※1 マグロの種類:クロマグロ、ミナミマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、ビンチョウマグロ、コシナガマグロ、タイセイヨウクロマグロ、タイセイヨウマグロ(水産研究所調べ)

 

「海を耕す!」

白浜臨海研究所(1958年春頃)

現在の近畿大学水産研究所

 漁獲量が大幅に落ち込み、遠洋漁業しかなかった戦後、近畿大学初代総長、世耕弘一氏が掲げた「海を耕す!」という理念のもと、栽培漁業を提唱(※1)。その後、和歌山県白浜町の協力を得て、1948年に近畿大学の前身である大阪理工科大学の白浜臨海研究所(現、近畿大学水産研究所)として誕生した。

 今ではすっかり有名になった“近大マグロ”。初出荷を迎えるのは、まだまだ先。実に56年後となる。

※1 「陸上の土地の耕作だけでなく、海を耕して、海産物を増やすことが必要だ」と世耕弘一氏が提唱。

 

「近大マグロの父」

網生簀(小割)式養殖法によるハマチ養殖の様子 写真は2代目所長 原田輝雄氏(1955年)

 養殖研究の成功を裏付ける要因の一つが“網生簀(小割)式養殖法”の開発です。

 1953年、白浜臨海研究所に助手として赴任してきた一人の人物によって養殖研究が大きく動くことになります。開設当時、飼育状況は著しくなく、新たに研究を担う人材が必要とされていました。そこで白羽の矢が立ったのが2代目所長となる原田輝雄氏(当時 27才)、この先「近大マグロの父」と呼ばれるその人です。

 1954年、この頃、湾を仕切って放し飼いにする“築堤式養殖法”から、小割りにした網生簀を用いる方法に着目。これにより水産養殖は大きな進歩を遂げ、養殖技術の世界基準となっていきます。

 

研究はいよいよクロマグロへ 

長い道のりのはじまり

世界初のクロマグロ採卵(1979年)

 さて、近畿大学水産研究所が水産庁からの委託を受け、クロマグロの養殖をスタートさせたのは1970年のこと。完全養殖に成功するまで、実に30年以上の取り組みが始まります。(※1)

 クロマグロが世界で初めて生簀内で産卵したのは、研究開始から9年後の1979年。採取した約160万個の卵をふ化させ、およそ50日間の飼育に成功。ところがその後、産卵しない年が11年も続き、1983年以降、研究の中断を余儀なくされます。

※1 研究をスタートさせたものの成果が上がらず、研究は3年で一度終了する。その後、近畿大学が独自に研究を続けた末、完全養殖に辿り着く。

 前例のない研究に取り組む中、一時は“研究の撤退”を求める声も出始めます。しかし世耕弘一氏の強い信念と確かな裏付けにより研究は続行され、1995年に世界で初めて、人工ふ化クロマグロの稚魚87尾を放流することに成功!!

餌となるサバなどの資源保護に取り組み、環境に配慮した配合飼料で育てている

 そして2002年。ついに、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功します。

 1970年に着手したクロマグロの養殖研究。デリケートな魚であり、生態もよく知られていなかったクロマグロの完全養殖に32年もの歳月を費やしました。すべてが手探りの時代、その成功の裏に、長年クロマグロを徹底的に観察し続けた研究者たちの信念と努力があったことは言うまでもありません。

 

近大マグロの誕生! 

”卒業証書”がついたクロマグロ

卒業証書は現在もすべて添えられている

 完全養殖に成功したクロマグロを2年間大切に飼育し、市場へと初出荷されたのは2004年。氷の上に横たわる「海のダイヤ」近大マグロの頬には“卒業証書” が添えられていました。大海原ではなく網生簀(小割)式の中で育ったクロマグロにも『頑張った証し』が授与されたのは、なんとも粋な計らい。こうして“近大マグロ”は誕生した。

 

継承される研究への熱意

原田輝雄所長(右から5番目)と、研究に携わる教職員の皆さん(1985年頃)

 近畿大学水産研究所で養殖されているクロマグロは本マグロとも呼ばれ、マグロ類の中で一番の大型です。ここで育ったマグロの最大記録はなんと全長287cm、重さ403kg!

 研究の過程で数々の難題やトラブルを乗り越え、積み重ねてきた研究は画期的な成果となって表れました。文部科学省が進める「21世紀COEプログラム(※1)」に採択されたり(2003年)、多くのビジネス賞を受賞(※2)、メディアでも多く取り上げられ、今や世界に誇る魚類養殖研究の最先端となっている。

※1 21世紀COEプログラムとは・・・「大学の構造改革の方針」(2001年6月)に基づき、2002年から新たに開始された文部科学省の研究拠点形成等補助金事業のこと

※2 「クロマグロ完全養殖の技術開発」において、「平成17年度ニュービジネス大賞 優秀賞」、「2005年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞日経産業新聞賞」の受賞。農林水産大臣より「平成16年度民間部門農林水産研究開発功績者」を受賞。

 

生簀内を泳ぐ、丸々と育った近大マグロたち

 Vol.1では、近大マグロのはじまりから誕生までの歴史について紹介しました。卒業した”近大マグロ”についてはVol.2へつづく。

 7月10日公開予定です。お楽しみに!!

画像提供:近畿大学 水産研究所

 

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和歌山県西牟婁郡白浜町3153